【ネタバレ配慮レビュー】
『七つの大罪』の大ヒットにより、今や世界中でファンを抱える大人気作家となった鈴木央の連載処女作。
『Revenge』で、集英社の新人漫画賞だったホップ☆ステップ賞の佳作を獲得して以降、何本かの読切作品を掲載した後に発表された連載開始の一報と、作品の題材が
「ゴルフ」
であることは、当時まだそう多くなかったであろうファンの間にも衝撃が走りました。
「ゴルフ」だし、主人公が「外国人」っぽいし、しかも「小さい子供」だし。
『るろうに剣心』『ONE PIECE』『遊戯王』『地獄先生ぬ~べ~』『シャーマンキング』等、大物作品が跋扈していた当時の週刊少年ジャンプにおいても、かなり異色の作品となりました。
ただしそのチャレンジ精神は最初から受け入れられたとは言い難く、残念ながらこの作品は連載開始から僅かな期間で一度打ち切りを経験することになります。
しかしながら、連載中のアンケートに表れなかった潜在的なファンの声が予想以上に多く、週刊少年ジャンプ史上初めて「打ち切りにされてから読者の声援で連載が再開された作品」となりました。
再開後は魅力的なキャラクターを数多く生み出し、美麗な描写と胸を熱くする展開の連続で読者を魅了したこの作品は、週刊少年ジャンプの歴史の1ページとして存在感を発揮していきました。
『七つの大罪』や『黙示録の四騎士』に比べると荒削りな作品ではありますが、若き日の鈴木央の類稀なセンスと情熱が伝わってくる原点の一作。
もしまだ未読の方は是非とも読んでみてください。
※以下、ネタバレレビュー有り
【完全ネタバレレビュー】
はい、というわけでライパクです。
週刊少年ジャンプの歴史において、間違いなく「最高のゴルフ漫画」と評して間違いないでしょう。
ゴルフという「強さの設定」の上限が理論上決まっているスポーツで、ジャンプ的なインフレを起こすとどうなるか、を身を以て証明した意欲作です。
この作品のクライマックスは間違いなくキャメロット杯だと言って、誰も異論は無いでしょう。強さのインフレを起こせば起こすほど、作品の展開の面白さ&熱さを増していきました。
同時にゴルフというスポーツを扱う以上、それは作品の寿命を犠牲にすることと同義で、『七つの大罪』に出てくる原初の魔神が己の命を削るごとに力が強くなる「終局(クライシス)」という魔力を持っていましたが、まさにそれを漫画作品のスケールで行ったのが『ライジングインパクト』です。
本当にキャメロット杯は盛り上がりました。
未だに、鈴木央作品をあれほどワクワクしながら毎週読んだ時期はありません。
日本校の予選におけるガウェインの奮闘、その後のランスロット参戦、アメリカ校の衝撃、対校戦の激闘、トリスタンの圧倒的存在感、「覚醒ガウェイン」という激震…
賛否両論はあれど、本当にライパクが一番ギラギラに輝いていた時期でした。
ただ、強く輝く星がいつか自重でブラックホールと化すことがあるように、JC14巻以降(文庫版でいうと8巻の115話以降)の展開は、厳しい言い方をすると「打ち切りにされたくてやってる」としか思えないほど酷い有様で、完全にトーンダウンしてしまいました。
まあ、もみじ(須賀川紅葉)、若葉、アシュ様(アシュクロフト)と、出てくる新キャラがことごとくクズ野郎ばかりで、大変不評でしたからね。
その上、唐突に仲間同士が仲違いしたり離反していったりと、新展開への布石だっただろうと想像できるとはいえ、お世辞にも読んでいて気持ちが良いとは言い難い展開の連続で、急速に読者の支持を失っていきました。
そして14巻以降の新キャラビッグ3の最後の1人、アシュクロフトが登場して間もなく、この作品は「打ち切りからの復活」と共に「1度の連載で2度打ち切りを食らう」という伝説を残すことになります。
故に、この作品が当時の読者から「面白い」という評価を受けるのは、ほぼキャメロット杯までの評価だと言って過言ではありません。
自分もそれは否定しませんし、否定する余地もありません。
「キャメロット杯までは面白かった。」
それが一般的な『ライジングインパクト』の評価です。
ただ…
それでもなお…
自分はこの作品を今でも愛して止みません。
もちろん14巻以降の展開も含めて、です。
「馬鹿な子ほど可愛い」というのは無礼な言い方かもしれませんが、鈴木央という類稀な才能が週刊少年ジャンプという媒体で世に出て、試行錯誤を重ねながらも情熱を注いで創り出し、爆発的な熱量を宿したこの作品は、自分にとって清濁併せて一気飲みしたくなる「魅力」が込められているんです。
この作品が礎となり、以降数多くの連載作品と読切作品を経て、その集大成である『七つの大罪』でついに鈴木央という存在が絶大な評価を受けることになります。
その礎は、やっぱり清濁併せ持っているからこそ強固なんです。
「週刊連載作品として、毎週読者を驚かせる展開にしたい。」という、鈴木央が今でも作品に込めているメッセージはこの作品から始まっています。
本当に毎週読んでいて何度も何度も感情を揺さぶられました。
他人に薦める前提でなければ、今でも自分にとっては「鈴木央作品で一番好きな作品」です。
集英社さん。
「ライジングインパクト 完全版」の刊行、いつまでもお待ちしてます。
【ピックアップワード】
※作品内の印象的なキャラや出来事を紹介します。
・須賀川 紅葉(すかがわ こうよう)
それはライジングインパクトの世界に突如舞い降りた堕天使。
良い意味でも悪い意味でも、とてつもない衝撃力を発揮した人型核爆弾。
ライパク史上最も愛されたネタキャラ。
こいつを評する言葉には枚挙に暇がありません。
実質、ライパクを2度目の打ち切りに導いた一因でありながら、1周回って愛されてしまった漢(おとこ)。
俗称:もみじ
まず最初に名前が登場したのは、コミックスに描かれた「昨年&一昨年のキャメロット杯の成績表」です。
トリスタンが最初の個人優勝を飾った一昨年の成績表の下に書かれた「須賀川紅葉」という唯一の日本人名。
成績は5アンダーの2位タイ。
これが発表された当時は、「トリスタンに次ぎ、ビルフォードと並ぶ実力者が日本校にも居たのか!」と話題になりました。
さらに語呂の良い名前だけの存在だったのが逆に読者の想像力を掻き立て、中には須賀川紅葉想像図として各々がイメージする須賀川紅葉を描いて、ホームページ等で発表するファンも現れたほどです。(※主にイケメンが多かったです。)
そしてついに本編への登場を果たしたXデー。
そこに居たのは荒井大地よりも厳つい顔をした、太眉ロン毛オールバックのマッチョでした。
自ら想像図を描かないまでも、多くの読者が思い描いていたであろう「須賀川紅葉」のイメージのおよそ99.7%ほどは木っ端微塵に吹き飛んだはずです。
新展開における新キャラのテコ入れとして、ミジンコの糞ほども女性読者に媚びないその圧倒的存在感。。
その衝撃たるや、『Ultra Red』の山田ショック、『金剛番長』の卑怯番長義手ショックと並び、「鈴木央作品三大ショック」の1つに数えられるほどです。(※当者比)
さらに、ファンには既にカップルどころか夫婦とまで見做されていた戒×美花(東堂院戒と黒峰美花のカップリング)に割って入ろうとする図々しさを見せた上、何か深い事情がありそうだった右腕の大怪我が実は自棄酒を煽った(※当時中学生)末の酔っぱらいとの喧嘩と判明してしまった瞬間、この作品にはとんでもない爆弾が投下されたのだと皆恐れ慄きました。
その後、ライザーファンとリーベルファンをマジギレさせた六条若葉登場の衝撃も冷めやらぬ内に放ったあの落雷ショットを見た瞬間、「あっ…この作品は1つ上のステージへ昇ってしまったんだな…」と理解し、ガミガミ個人はここらへんでこの作品の打ち切りを本気で心配し始めました。
(※一番最初に読んだ時は呼吸困難になるくらい爆笑しましたが。)
こんな鈴木央作品史上最強クラスのネタキャラ「もみじ」ですが、一部の戒×美花ファンからは二人の仲をより強固にしてくれた愛のキューピッドとして敬われたりもしてました。
打ち切りのせいで、実際多くの活躍の場があったわけではないですが、もしあのまま作品が続いていたら一体どういう扱われ方をしたのか、というのは今でも少し興味があります。
・トリスタン=リオネス
自分は鈴木央作品において、実は過去特別に執心したキャラというのがほとんど存在しません。
あくまで作品全体の流れを考察したり、細かいネタなどをいじって楽しむ傾向にあります。
そんな自分が過去に2キャラだけ、特別な感情を抱いたキャラが居ます。
それが『ライジングインパクト』のトリスタンと、『ブリザードアクセル』の田辺まちかです。
(※田辺まちかはひとまず置いときます。)
トリスタンは登場時のイケメンっぷりに反した性格的な印象の悪さから、しばらく評価が二分していたキャラですが、鈴木央の連載作品最初の「メリオダス」であるトリスタンパパとの心温まるエピソードが公開されてからは爆発的にファンが増え、以後は作中屈指の人気キャラとなりました。
自分もその流れで評価を見直し、黒ずくめという容姿の好みも相俟って割と好きなキャラと位置づけていたんですが、その感情がたった1話で頂点に達し爆発四散したのが、あのホールインワン回でした。
ホールインワンという、ゴルフにおける最高のショットを作中で最初に与えられたキャラ。それはこの作品におけるトリスタンの存在感を決定づける重要な回でもあったんですが、とにかくそのショット&ショット後の表現が圧倒的にカッコよかったんです。
特にショットを沈めた後「カシュンッ」という音と共にクラブを納める最後のコマを見た瞬間、生まれて初めて漫画を読んでいて背筋に雷が走りました。
身体中が震え上がり、総毛立つカッコよさ。
最高です。
鈴木央作品を読んでいてこのシーンよりも感情を揺さぶられた経験は未だありません。
贅沢かもしれませんが、いつかまた鈴木央作品でそんな経験ができればな、と思っています。
ちなみにこのシーンがあまりに好きすぎて、一時期このシーンが収録されているJC10巻を古本屋で見つけるたびに、こんな素晴らしい巻が古本屋に置かれていることが我慢ならずに買い足し続けた挙げ句、10冊近く同じ巻を所持していたことがありました。
アホですね。
こんな素晴らしいキャラを生み出した鈴木央への敬愛の念は尽きませんが、ギフトである「風の流星群(フォーリングスター)」の表現だけはもう少しだけどうにかならなかったかな?と思いました。
本当にありがとうございました。
(※もちろん連載当時も散々ネタにされました。)